COLUMN / 制度・法律
連帯保証人の極度額——2020年民法改正が介護契約に与えた影響
羽田 圭佑(株式会社LAST SOLUTIONS 代表取締役)
損害保険会社の損害サービス部門で事故対応と保険金の支払査定に従事したのち、保険代理店営業として引受時のリスク審査と契約設計に携わる。執筆者について
入居契約で身元保証人や連帯保証人をとっている施設は、2020年の民法改正の影響を正しく理解できているでしょうか。「昔から使っている契約書のまま」だと、保証の部分が無効になっているおそれすらあります。
結論から言えば、2020年4月施行の改正民法により、個人が連帯保証人となる「根保証契約」には、極度額(上限額)の定めが必須になりました。極度額の定めがなければ、その保証契約は無効です。本記事は、施設運営者に向けて、極度額とは何か、改正で何が変わったのか、そして介護施設の入居契約・身元保証にどう影響するのかを、民法の一次情報にもとづいて解説します。
① そもそも「極度額」とは何か
まず前提となるのが「根保証」という考え方です。根保証とは、一定の範囲で継続的に発生する債務を、まとめて保証する契約です。入居契約のように、毎月の利用料が継続して発生する関係では、保証人は将来にわたって発生する未払いを負う可能性があります。
ここで問題になるのが、保証人の負担が青天井になりかねないことです。そこで登場するのが「極度額」——保証人が負担する上限額のことです。極度額を定めれば、保証人は「最大でもこの金額まで」という見通しを持てます。改正前は、この定めがなくても個人が根保証人になれてしまい、想定外の高額な負担を負うリスクがありました。
② 2020年改正で何が変わったか
2020年4月に施行された改正民法は、この点を大きく変えました。個人が根保証契約の保証人となる場合、極度額を定めなければ、その保証契約は効力を生じないと定められたのです(民法第465条の2)[1]。つまり、極度額の記載がない個人の根保証は無効になります。
| 項目 | 改正前 | 改正後(2020年4月〜) |
|---|---|---|
| 極度額の定め | 必須ではない | 必須 |
| 定めがない場合 | 保証は有効になり得る | 保証契約は無効 |
| 保証人の負担 | 青天井になりかねない | 極度額が上限 |
この改正は、保証人を過大な負担から守ることを目的としています。裏を返せば、極度額を定めていない古い契約書のままだと、いざというときに保証が使えない——という事態が起こり得ます。
③ なぜ介護・入居契約に効くのか
介護施設の入居契約は、まさに「継続的に利用料が発生する関係」です。身元保証人や連帯保証人に月額利用料の支払いを保証してもらう形は、個人による根保証にあたることが多く、この改正の対象になります[1]。
したがって、入居契約書や身元保証に関する書面に極度額の定めがなければ、その保証は無効となり、いざ未払いが起きても保証人に請求できないおそれがあります。「保証人をとっているから安心」と思っていたのに、法的には保証が成立していなかった——これは、決して珍しくないリスクです。
④ 実務への影響:施設が確認すべきこと
この改正を踏まえ、施設が確認すべき点を整理します。
①契約書の極度額:個人の保証人をとる契約書に、極度額(上限額)が明記されているかを確認する。②書面性:保証契約は書面(または電磁的記録)によらなければ効力を生じません[2]。③古い雛形の点検:2020年より前の契約書雛形を使い続けていないか。個別の条項の適法性は、必ず弁護士等の専門家にご確認ください。
とくに、長く同じ契約書を使ってきた施設ほど、点検の必要があります。極度額の記載漏れは、保証全体を無効にしかねない、見過ごせないポイントです。
⑤ 「人の保証」に頼る設計の限界
ここで、より本質的な論点があります。極度額の定めは保証人を守る一方で、施設から見れば「保証される金額に上限がある」ことを意味します。極度額を超える未払いは、保証人に請求できません。加えて、保証人自身に資力がなければ、極度額の範囲内でも回収は難しくなります。
つまり、個人の保証人という「人」に頼る設計には、構造的な限界があるのです。だからこそ、施設が本当に必要とするのは、支払いのリスクを個人の資力に賭けるのではなく、仕組みで引き受ける備えです。この考え方は、成年後見の限界(後見制度の限界を参照)とも通じます。
民法改正は、保証人を守ると同時に、「人の保証には上限がある」という事実を明確にしました。未払いを確実に施設の損失から切り離したいなら、個人の保証だけに依存しない設計が、これからの受け入れの前提になります。
⑥ まとめ
2020年の民法改正で、個人が連帯保証人となる根保証には極度額の定めが必須となり、定めがなければ無効になります。介護施設の入居契約もこの対象で、古い契約書のままだと保証が成立していないおそれがあります。まずは契約書の点検を。そして、「人の保証」には上限と資力の限界があることを踏まえ、仕組みでの備えを検討することが重要です。私たちLAST SOLUTIONSは、入居者様の月額利用料の保証を通じて、個人の保証に頼りきらない受け入れ体制づくりをお手伝いしています。
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出典
- 民法第465条の2(個人根保証契約の極度額)/2020年4月1日施行 改正民法
- 民法第446条(保証契約は書面等によらなければ効力を生じない)
※本記事は制度の一般的な整理です。個別の契約書の適法性・有効性は、弁護士等の専門家にご確認ください。