COLUMN / 現場のあるある・構造
介護相談員の「シャドーワーク」——記録に残らない仕事の正体
羽田 圭佑(株式会社LAST SOLUTIONS 代表取締役)
損害保険会社の損害サービス部門で事故対応と保険金の支払査定に従事したのち、保険代理店営業として引受時のリスク審査と契約設計に携わる。執筆者について
介護施設の相談員(生活相談員)の一日を、業務日報に書ける範囲で見ると、面談・調整・記録が並びます。しかし実際には、その行間に日報には書ききれない、名前のつかない仕事が大量に挟まっています。家族への何度目かの電話、未入金の確認、金銭の相談への同席、身元引受をめぐる調整——。これらは評価表にも報酬にも表れにくい、いわば「シャドーワーク(影の労働)」です。
結論から言えば、相談員の疲弊の正体は、能力や気合いの問題ではなく、“見えない仕事”が構造的に一人に集まってしまうことにあります。本記事は、特定の施設や個人を批判するためではなく、この構造を分解し、見えない負担をどう軽くできるかを考えるために書きます。
① 「シャドーワーク」とは何か
シャドーワークとは、もともと「賃金が支払われないのに、社会を回すために必要とされる労働」を指す言葉です。介護の現場に置き換えると、職務として明確に定義されず、記録にも評価にも残りにくいのに、誰かがやらなければ現場が止まってしまう仕事を意味します。
やっかいなのは、シャドーワークは「できる人」のところに自然と集まる点です。気が利く、断らない、責任感が強い——そうした相談員ほど、制度の隙間に落ちた仕事を拾い続け、いつしかそれが“当たり前の担当”になっていきます。本人も周囲も、それが余分な負担だと気づきにくいのです。
② 相談員に集まる“記録に残らない仕事”
相談員の仕事を「記録に残る仕事」と「残らない仕事」に分けると、負担の偏りが見えてきます。
| 記録に残る仕事 | 記録に残りにくいシャドーワーク |
|---|---|
| 入居面談・アセスメント | お金の話を切り出す気疲れ、督促の電話 |
| ケアマネ・多職種との連携記録 | 連絡がつかない家族への繰り返しの架電 |
| 行政・書類手続き | 金銭管理・支払い方法の相談への同席 |
| 入退去の調整 | 身元引受・保証をめぐる非公式な調整 |
右側の仕事は、どれも「やって当然」と見なされがちですが、実際には高い精神的負荷を伴い、時間も読めません。とりわけ「お金」に関わるやり取りは、相手の感情に触れるため、一件ごとに消耗が大きいのが特徴です。
③ なぜシャドーワークは生まれるのか
これは個人の性格や施設の怠慢の問題ではなく、制度と社会構造の隙間から生まれます。主な要因は3つです。
家族機能の低下
単身化・遠距離化で、本来家族が担った連絡・金銭対応が施設側に流れ込む。
制度の隙間
「誰の担当でもない仕事」が明文化されず、現場の裁量で埋められる。
属人化
拾える人に集中し、仕組みではなく個人の頑張りで回ってしまう。
背景には、家族という前提の変化があります。国立社会保障・人口問題研究所の推計では、単独世帯は2020年の38.0%から2050年には44.3%へ上昇します[1]。家族が担っていた役割の受け皿が、気づけば施設の相談員になっている——これがシャドーワーク増加の土台です。
④ 見えない負担が招くもの
シャドーワークを放置すると、その代償は施設全体に及びます。評価されない負担は、静かに人を辞めさせ、サービスの質を削っていきます。介護労働の実態調査でも、人手不足や負担の重さが継続的な課題として示されています[2]。
見えない負担 → 特定の相談員に集中 → 疲弊・離職 → 残った人へさらに集中——という負のループが起きます。採用で人を足しても、シャドーワークの構造が変わらなければ、また同じことが繰り返されます。
経営面でも軽視できません。相談員が督促や金銭対応に時間を奪われるほど、本来の入居支援・稼働率向上に割ける時間が減ります。人手不足が深刻な倒産増加の局面[3]では、この「時間の流出」が経営体力を静かに削ります。
⑤ どう減らすか——可視化と仕組み化
シャドーワークを減らす出発点は、まず「見えない仕事」を書き出して可視化することです。そのうえで、「本当に相談員が担うべき仕事か」を仕分けます。ケアや相談援助の本質に関わる仕事は残し、制度や仕組みで代替できる仕事は外に出す——この切り分けが要になります。
とりわけ「お金」に関わるシャドーワーク——未入金の確認、督促、支払い方法の相談は、仕組みで肩代わりしやすい領域です。ここを外部の保証の仕組みに委ねられれば、相談員は感情の消耗から解放され、本来の支援に集中できます。私たちが「構造を変える側に回る」というのは、まさにこの部分です。自社もまた“お金の痛み”を扱う立場だからこそ、その負担を現場の個人に背負わせない設計を目指しています。
大切なのは「相談員がもっと頑張る」ことではありません。頑張らなくても回る構造をつくること。見えない仕事を可視化し、仕組み化できるものは仕組みへ——それが、離職を防ぎ、ケアの質を守ります。
⑥ まとめ
相談員のシャドーワークは、個人の資質ではなく、家族機能の低下と制度の隙間が生む構造的な問題です。放置すれば疲弊と離職を招き、経営体力も削ります。減らす鍵は、可視化と仕組み化——とくに「お金」に関わる見えない仕事を外部の仕組みへ委ねること。私たちLAST SOLUTIONSは、入居者様の月額利用料の保証を通じて、督促や金銭対応という“影の負担”を施設の外へ切り出し、相談員が本来のケアに向き合える環境づくりをお手伝いしています。
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出典
- 国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(2024年推計)」
- 介護労働安定センター「介護労働実態調査」(人手不足感・労働負担に関する調査)
- 東京商工リサーチ「2024年『老人福祉・介護事業』倒産・休廃業解散調査」