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COLUMN / 緊急時の対応

手術の同意書に、家族以外はサインできるのか

執筆・監修

羽田 圭佑(株式会社LAST SOLUTIONS 代表取締役)
損害保険会社の損害サービス部門で事故対応と保険金の支払査定に従事したのち、保険代理店営業として引受時のリスク審査と契約設計に携わる。執筆者について

病院から一本の電話が入る。「明日、手術になります。同意書にご家族の署名をいただきたいのですが」。受話器を持ったまま、相談員は入居者の顔と、入居時に受け取った書類の束を思い浮かべます。この方には、署名できる家族がいない。

結論から言えば、医療行為への同意は本人だけが持つ一身専属的な権利であり、家族にも成年後見人にも、本人に代わって同意する法的な権限(代諾権)はないというのが一般的な整理です。つまり「家族以外がサインできるか」という問いの立て方自体が、実は現場を迷わせています。本記事は、住宅型有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅の相談員・施設長に向けて、同意書という一枚の紙の法的な位置づけを解きほぐし、身寄りのない入居者の手術をどう進めるのか、そして施設が担える範囲と担えない範囲を整理します。

この記事の要点(3行まとめ)

  • 原則:医療同意は本人の一身専属的な権利。家族の署名を代諾権として定めた一般的な法律の規定はない[1]
  • 誤解成年後見人にも医療同意権はないとするのが一般的な整理。後見人がいれば解決する問題ではない[2]
  • 実務:署名者を探すのではなく、本人の意思を推定し、チームで決めて記録する——国が示すのはこのプロセス[3]

① 同意書は「誰のための紙」なのか

手術の同意書は、医師が患者に対して治療内容・リスク・代替手段を説明し、患者がそれを理解したうえで受け入れたことを確認する書面です。本来の主語は患者本人であり、家族ではありません。インフォームド・コンセントという考え方の中心にあるのは、自分の身体に何をされるかを自分で決めるという自己決定権です。

ところが実際の同意書には、患者本人の欄と並んで「ご家族(代諾者)」の署名欄が用意されていることがほとんどです。この欄の存在が、現場に強い印象を与えます。署名欄があるということは、誰かが署名しなければ手術は始まらない——そう受け取られてしまう。しかし法的に見れば、この欄は本人の同意を補強し、説明が確かに行われたことを関係者間で共有するための実務上の工夫であって、本人の同意を置き換えるものではありません。

この違いを押さえておくと、電話口で求められている中身が変わって見えてきます。病院が本当に確認したいのは「署名という形式」ではなく、この治療を進めてよいと判断できる根拠がどこにあるのか、という一点です。

② 家族の署名に、法的な代諾権はあるのか

意外に思われるかもしれませんが、成人した患者について、家族が本人に代わって医療行為に同意できると明記した一般的な法律の規定は見当たりません[1]。未成年者について親権者が判断する場面とは、法的な構造が異なります。

ではなぜ家族の署名が求められるのか。理由は主に三つです。ひとつは、本人の判断能力が十分でないとき、本人の意思を最もよく推し量れる立場にいるのが家族だと考えられているから。ふたつめは、治療方針をめぐって後から異議が出ることを避けたいから。みっつめは、費用の支払いや退院先の調整といった、同意とは別の実務を担う人を確保しておきたいからです。

つまり家族の署名欄は、「医療同意」「意思の推定」「紛争予防」「支払い・調整の担い手」という性質の違う四つの機能が、一枚の紙に束ねられた状態にあります。身寄りのない入居者の場面で現場が混乱するのは、この束が一気にほどけて、それぞれ別の人が担わなければならなくなるからです。

POINT

「家族がいないから同意できない」のではありません。もともと家族にも同意権はなく、束ねられていた四つの機能を分解して手当てする必要がある——そう捉え直すと、次に何をすべきかが見えてきます。

③ 成年後見人でも、手術の同意はできない

「では成年後見人を立てれば解決するのでは」と考える方は少なくありません。しかし、成年後見人の職務は財産管理と身上保護であり、医療行為への同意はその権限に含まれないとするのが一般的な整理です[2]。後見人は医師から説明を受け、入院契約を結び、費用を支払うことはできますが、手術を受けるか否かという決定そのものを引き受ける立場にはありません。

この点は、成年後見制度に対する期待と実務の間にある大きなギャップのひとつです。当社が施設の皆さまから伺う声のなかにも、「後見人がついているから安心だと思っていたら、いざというときに医療の判断では動けないと言われた」という趣旨のものがあります。制度は財産を守る仕組みとして設計されており、身体に関する決定までは想定していないのです。

同じことは、身元保証を掲げる事業者についても当てはまります。契約書に「緊急時対応」と書かれていても、医療同意そのものを代行できる事業者は存在しません。この点を誤解したまま契約すると、いざというときに「聞いていた話と違う」という事態を招きます。関連して、後見制度でカバーできない領域については成年後見人がついても未収は防げない——後見制度の限界でも扱っています。

④ 誰が何をできるのか——役割の一覧

ここまでの整理を、立場ごとに一覧にします。混乱の多くは「同意」と「それ以外の実務」を区別しないことから生じます。

立場医療同意説明を受ける費用の支払い退院先の調整
本人○(本来の主体)
家族×(代諾権の規定なし)○(実務上)△(合意による)○(実務上)
成年後見人×
介護施設×△(同席まで)×○(実務上)
保証・支援事業者×△(契約範囲による)△(契約範囲による)△(契約範囲による)
出典:民法・成年後見制度および厚生労働省ガイドライン[2][3]にもとづく一般的な整理。個別の運用は医療機関・契約内容により異なります。

表を見て気づくのは、医療同意の列だけが、本人以外すべて「×」で埋まることです。誰かを連れてくれば埋まる空白ではない。ここが、緊急時対応をめぐる議論で最も誤解されている点です。

⑤ 身寄りがない人の医療同意を、国はどう扱っているか

では、身寄りがなく判断能力も低下している人の手術は、永久に進まないのでしょうか。そうではありません。国は2019年に、身寄りがない人の入院・医療に係る意思決定が困難な場合の支援について、医療機関向けの考え方を整理したガイドラインを示しています[3]

その骨格は、「誰か一人の署名で決める」から「関係者が本人の意思を推定し、チームで決めて、過程を残す」への転換にあります。具体的には、本人に判断能力が残っている場合は本人の意思を最大限尊重し、不十分な場合は、これまでの言動・価値観・生活歴といった手がかりから本人にとって最善の方針を推定します。そして医師・看護師・医療ソーシャルワーカー・ケアマネジャー・施設職員などが参加する話し合いで方針を決め、その内容と根拠を診療録に記録する——という流れです。

人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン[4]も同じ思想に立っています。重要なのは結論を出す「人」ではなく、結論に至る「過程」の妥当性だという考え方です。

現場への含意

この枠組みでは、介護施設が持つ日々の記録が決定的な材料になります。「延命は望まないと話していた」「家族の話題を避けていた」——そうした記録が、本人の意思を推定する唯一の手がかりになる場面が実際にあります。記録は施設を守る書類であると同時に、本人の意思を代弁する資料でもあるのです。

⑥ 施設は何を求められ、どこまで担えるのか

現実の場面で、病院から施設に寄せられる依頼は多岐にわたります。同意書への署名、説明への同席、日用品の搬入、退院先の調整、費用の確認。このうち施設が法的に担う義務があるものは、原則としてありません。入居契約は住まいとサービスの提供に関する契約であり、医療上の決定を引き受ける契約ではないからです。

それでも現場が動くのは、目の前の入居者を放置できないからです。ここで大切なのは、善意で動くことと、その行為を契約や記録の上でどう位置づけるかを分けて考えることです。同意書の代諾者欄に施設長が署名する運用は、法的な効力がないうえに、後から責任の所在をあいまいにするおそれがあります。署名を求められた場合は、同意ではなく「説明に同席した事実の確認」として記名する、あるいは病院にガイドラインにもとづく手続きを提案する、といった対応が考えられます。

入院そのものをめぐる役割の分解については、「入院してください」と言われたとき、身元引受人がいない入居者はどうなるのかで詳しく整理しています。あわせてお読みいただくと、緊急時に空白になる領域の全体像が見えてきます。

⑦ 入居時にできる備え

手術の同意は、その場で解決できる問題ではありません。備えは入居のときに始まります。

第一に、本人の意思を聞いて残しておくこと。元気なうちに、どこまでの医療を望むか、望まないかを本人の言葉で記録しておく。これは法的な効力を持つ書面である必要はなく、日々の記録の一部で構いません。第二に、連絡・意思推定・費用・退院先という四つの役割について、誰が関与しうるかを入居時に棚卸ししておくこと。遠方の親族、旧知の友人、担当ケアマネジャー、成年後見人——それぞれが担える範囲は違います。第三に、できないことを先に確認しておくことです。「後見人がいるから大丈夫」「保証会社が入っているから大丈夫」という前提のまま緊急を迎えるのが、最も避けたい事態です。

そして最後に、金銭面の不安と医療上の意思決定は別の問題である、と切り分けておくこと。この二つを混同したまま「身寄りがないから受け入れられない」と判断してしまうと、本来受け入れられたはずのご入居まで断ることになります。

⑧ まとめ——探すべきは署名者ではない

手術の同意書に、家族以外がサインできるのか。この問いへの答えは「家族であってもサインで同意を代行することはできない」でした。医療同意は本人の権利であり、代わりに決められる人はいない。だからこそ国は、署名者を探す発想から、本人の意思を推定してチームで決めるプロセスへと軸足を移しました。

施設に求められているのは、代わりに決めることではなく、本人の意思を推定するための材料を持っている唯一の存在として、その場に参加することです。日々の記録、何気ない会話、生活の様子——それらは医療の決定を支える資料になります。

当社は、施設の皆さまが「身寄りがないこと」を理由に受け入れを断らずに済む状態を目指しています。医療上の決定を代行することはできませんが、利用料の支払いというもうひとつの不安については、施設の損失から切り離すことができます。受け入れの判断を、金銭リスクの心配から解放する——それが当社の役割だと考えています。

よくある質問(FAQ)

Q. 手術の同意書に、家族以外がサインすることはできますか。

A. 医療行為への同意は本人の一身専属的な権利と整理されており、家族を含む第三者が本人に代わって同意する権限(代諾権)を定めた一般的な法律の規定はありません。家族の署名は、本人の意思を確認しにくい場面で医療機関が実務上の慣行として求めているものです。したがって、家族以外の人が署名したからといって同意が法的に成立するわけではなく、逆に家族が署名しても本人の同意に代わるものではありません。

Q. 成年後見人は手術の同意ができますか。

A. 成年後見人の職務は財産管理と身上保護であり、医療行為への同意はその権限に含まれないとするのが一般的な整理です。後見人は医師からの説明を受けたり、契約や費用の手続きを担ったりすることはできますが、手術の可否そのものを決める立場にはありません。

Q. 身寄りがなく判断能力も低下している場合、手術はどう進めるのですか。

A. 国のガイドラインでは、特定の誰かの署名で決めるのではなく、本人の意思や価値観を推定できる情報を関係者で持ち寄り、医療・ケアチームで話し合って方針を決め、その過程を記録するという考え方が示されています。介護施設が保管する日々の記録や本人の言葉は、この推定の重要な材料になります。

※ 当社が担うのは月額利用料の保証です。緊急対応・死後事務は提携先のご案内となります(よくあるご質問をご覧ください)。

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出典・注記

  1. 医療行為への同意は本人の自己決定に属する一身専属的な権利であり、成人について家族等の代諾権を一般的に定めた法律の規定は存在しない、とする一般的な整理。個別の解釈は事案により異なります。
  2. 民法にもとづく成年後見人の職務(財産管理・身上保護)に関する一般的な整理。医療行為への同意権は含まれないと解されています。
  3. 厚生労働省「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン」(2019年)にもとづく一般的な整理。
  4. 厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」(2018年改訂)にもとづく考え方。

※本記事は制度と現場実務に関する一般的な整理であり、個別の対応の可否を保証するものではありません。当社は、医療同意の代行、医療機関への同行、緊急時の駆けつけ、入院手続きの代行を行うものではありません。個別の判断は、医療機関・弁護士等の専門家にご確認ください。

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