COLUMN / 制度・法律
介護施設の滞納、退去させられるのか——法的にできること・できないこと
本記事は、損害保険会社で支払査定・リスク審査に従事した者の監修のもと作成しています。
結論から言えば、「利用料を滞納したから即退去」は、法的には簡単ではありません。施設が一方的に居室を明け渡させることには、契約上・法律上のいくつかのハードルがあります。本記事は、住宅型有料老人ホーム・サ高住の運営者に向けて、滞納が起きたとき施設が「法的にできること・できないこと」を、比較表とともに整理するものです。
お伝えするのは、個別の督促手順や回収テクニックではなく、判断の土台となる制度の考え方です。ここを押さえておくと、滞納の場面でも冷静に、かつ適切に動けます。
そもそも、なぜ「即退去」はできないのか?
背景には、入居契約の性質があります。住宅型有料老人ホームやサ高住の入居契約は、住まいの提供を含むため、契約の形によって退去をめぐる考え方が変わります。
| 契約方式 | 性質 | 退去をめぐる考え方 |
|---|---|---|
| 利用権方式 | 居室と介護等サービスを利用する権利 | 契約内容に沿った解除の可否が問われる |
| 賃貸借方式(に近い形) | 住まいの賃貸に近い性質を帯びる | 「信頼関係破壊の法理」が働きやすい |
賃貸借において判例が積み重ねてきたのが「信頼関係破壊の法理」です。これは、賃料の不払いなど契約違反があっても、それが当事者間の信頼関係を破壊するに至ったと認められて初めて契約解除ができる、という考え方です[1]。つまり、1〜2か月の滞納が生じたからといって、直ちに契約を解除して退去を求められるわけではありません。
施設が「できること」——正規の手続きを順に踏む
施設にできるのは、感情的な実力行使ではなく、契約と法律に沿った手続きを順に踏むことです。一般には、次の段階が想定されます。
督促・連絡
滞納の事実を本人・身元保証人・家族に伝え、支払いを求める。
催告
相当期間を定めて支払いを求める。
契約解除の検討
なお履行されない場合、契約に基づき解除を検討する。
法的手続き
任意に応じないとき、裁判所を通じた手続きによる。
「鍵を替える」「荷物を運び出す」「電気を止める」といった自力救済は、法律で禁じられています。契約解除が正当であっても、明け渡しの強制は司法の手続きを経る必要があります。これを誤ると、施設側が損害賠償責任を問われるリスクすらあります。
施設が「できないこと」——支払能力そのものは動かせない
見落とされがちなのが、退去させられたとしても、未収そのものは消えないという事実です。滞納が続く入居者の多くは、年金だけでは月額利用料が続かない、家族が支払いに応じない、といった構造的な事情を抱えています。退去を進めても、すでに発生した未収分の回収は別問題として残ります。
さらに、支払いが困難になった入居者には、生活保護をはじめとする公的支援への着地という選択肢もあります。「追い出す」ことが唯一の解ではなく、支払いを継続できる形をどう用意するかが、施設の損失を最小化する現実的な論点になります。
身元保証人がいても、それだけで安心はできません。身元保証は連絡・引受の役割が中心で、金銭の保証範囲は契約次第です。2020年施行の改正民法では、個人が根保証人となる場合に極度額(上限額)の定めが必須となり[2]、保証人に無制限の支払いを求めることはできなくなっています。
「退去させる」と「支払いを続けられる」、どちらが合理的か?
退去という選択肢は、施設にとって割の合わない出口になりがちです。両者を並べると、その差は明らかです。
| 観点 | 退去を進める | 支払いを続けられる設計 |
|---|---|---|
| 手間・コスト | 督促・交渉・法的手続きで大きい | 入口の設計で抑えられる |
| 法的リスク | 自力救済など誤対応のリスク | 正規の枠組みで低い |
| 未収の行方 | 発生分は施設に残りやすい | 施設の損失から切り離しやすい |
| 入居者の生活 | 住まいを失う | 住み続けられる |
こうして整理すると、滞納への対応は「どう退去させるか」ではなく、「そもそも支払いが続く状態をどう保つか」に本質があることが見えてきます。
まとめ:入口の設計が、苦しい判断を減らす
「滞納=即退去」は法的に簡単ではなく、退去を進めても未収は残り、手間も法的リスクも伴います。だからこそ、入居の入口で支払いの構造を確認し、万一支払いが滞ったときにも施設が損失を抱え込まない仕組みを持っておくことが、経営を守ります。私たちLAST SOLUTIONSは、入居者様の月額利用料の保証を通じて、一室分の未収を施設の損失から切り離し、施設様が「滞納=即退去」という苦しい判断に追い込まれない体制づくりをお手伝いしています。
退去に踏み切る前に:検討したい3つの選択肢
滞納が続くと「退去やむなし」と考えがちですが、その前に検討できる選択肢があります。いずれも、施設の損失を抑えながら入居者の生活を守る方向の一手です。
公的支援への接続
生活保護など、支払いを継続できる制度につなげられないかを相談する。
支払い方法の見直し
年金支給日に合わせた引き落とし設計など、続けられる形に調整する。
保証の仕組みの活用
未収を施設の損失から切り離し、退去以外の着地を探る。
退去は手間も法的リスクも大きく、しかも未収は残ります。「出す」前に「続けられる形」を探ることが、結果的に施設の負担を軽くします。
未収・受け入れ体制について、ご相談を承っています
「まず話を聞いてみたい」という段階でも構いません。仕組み・料金・契約のご不明点など、資料のご請求・オンラインでのご説明も承っています。
関連記事
出典
- 民法(賃貸借契約の解除に関する判例法理=信頼関係破壊の法理)
- 民法第465条の2(個人根保証契約の極度額)/2020年4月施行 改正民法
- 厚生労働省「有料老人ホーム設置運営標準指導指針」
- 厚生労働省・生活保護制度(支払困難時の公的支援の枠組み)
