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COLUMN / 未収・保証・与信

未収は「回収」より「起こさせない」——予防設計という発想

執筆・監修

羽田 圭佑(株式会社LAST SOLUTIONS 代表取締役)
損害保険会社の損害サービス部門で事故対応と保険金の支払査定に従事したのち、保険代理店営業として引受時のリスク審査と契約設計に携わる。執筆者について

未収金の相談を受けると、多くの施設の関心は「どう回収するか」に向いています。督促の仕方、内容証明の出し方、法的手続きの進め方——もちろん、起きてしまった未収に対処する術は必要です。しかし、そこにばかり力を注いでも、未収そのものは減りません。回収は、あくまで起きた後の後始末だからです。

結論から言えば、未収対策の重心は「回収(起きてから取り戻す)」から「予防設計(そもそも起こさせない)」へ移すべきです。回収はコストも時間もかかり、しかも取り戻せる保証がありません。一方、予防は仕組みで設計でき、一度組めば継続的に効きます。本記事は、住宅型有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅の運営者に向けて、なぜ回収が割に合わないのか、そして「予防設計」とはどういう発想で、どんな層で組み立てるのかを整理します。

① 未収対策の重心は「回収」に偏っている

未収が発生すると、現場は当然その回収に動きます。ご本人への架電、ご家族への連絡、書面の送付、そして状況によっては法的手続き。これらはどれも「すでに滞ってしまったお金を、後から取り戻す」ための行動です。問題は、多くの施設で未収対策=この回収業務、とほぼ同義になってしまっていることです。

しかし、火事にたとえれば、回収は「消火」にあたります。消火の技術を磨くことは大切ですが、本当に被害を減らすのは、火を出さない設計——防火のほうです。未収も同じで、起きてから追いかける消火活動をいくら鍛えても、出火そのものが減らなければ、現場は毎回燃え広がる火を追い続けることになります。重心を消火から防火へ——これが本記事の主題です。

回収=消火
起きた後の後始末。技術を磨いても件数は減らない
予防=防火
出火そのものを減らす設計。一度組めば継続的に効く
重心の移動
「どう取り戻すか」から「どう起こさせないか」へ

② なぜ回収は割に合わないのか

「起きたら回収すればいい」という考えが危ういのは、回収が想像以上に割に合わないからです。回収にかかるコストを分解すると、3つの負担が見えてきます。

表:回収にかかる3つの負担
負担中身
時間の負担督促・通知・法的手続きから実際の入金まで、数ヶ月〜年単位。その間も損失は積み上がる
人と気力の負担相談員・事務が本来のケア時間を割いて金銭の督促に追われる。精神的な消耗も大きい
不確実性の負担手間をかけても回収できるとは限らない。支払う原資が尽きていれば、取り戻せない

とりわけ重いのが3つ目です。回収は、どれだけ正しく手順を踏んでも、成果が出ない可能性がある取り組みです。ご本人の資力が失われていれば、判決を得ても回収は困難です。しかも1室の長期滞納は、居室単位の採算を静かに崩していきます(居室単位の損益を参照)。投じた労力に対してリターンが読めない——これが回収の本質的な弱点です。だからこそ、そもそも起こさせない予防にこそ、投資対効果があります。

投資対効果という視点でもう一歩踏み込むと、回収と予防では「かけたコストの性質」が根本的に違います。回収コストは、未収が起きるたびに毎回ゼロから発生する変動費のようなもの。件数が増えれば、その都度、時間も気力も新たに削られます。一方、予防の設計は一度組めば繰り返し効く——審査の基準、契約の条項、保証の仕組みは、作り込んだ分だけ、以降のすべての入居に対して自動的に働きます。同じ労力を投じるなら、「起きるたびに消える回収」より「積み上がって効き続ける予防」のほうに配分するのが、経営として合理的です。

③ 「予防設計」という発想の転換

予防設計とは、「未収が起きてから動く」のではなく、「未収が起きにくい構造を、あらかじめ組み込んでおく」という発想です。個人の頑張りや督促の巧拙に頼るのをやめ、誰が担当しても未収が起きにくい仕組みを、契約と運用に埋め込みます。

ここで大切なのは、予防設計は「支払えない人を入れない(門前払い)」こととは違う、という点です。むしろ逆で、支払いに不安のある方も受け入れつつ、それでも未収が起きにくいように前もって手を打っておくのが予防設計です。断ることでリスクを避けるのではなく、受け入れながらリスクを構造で抑える。「断らない」経営と予防設計は、対立するどころか表裏一体です(「断らない」の損益分岐点を参照)。

発想の転換をひと言でいえば、「人を見て断るか受けるかを決める」から「仕組みを整えて受けられる範囲を広げる」への移行です。前者は判断を担当者の勘に委ね、外れれば未収になります。後者は、審査・契約・保証という再現性のある仕組みに判断を支えさせるため、担当者が代わっても結果がぶれにくい。属人的な当たり外れを、構造の安定に置き換える——これが予防設計のもう一つの狙いです。

POINT

予防設計の目的は「未収ゼロ」ではありません。人の状況は変わるので、未収の可能性を完全には消せません。目的は、未収が起きても施設の損失にならない・現場の手間にならないところまで、あらかじめ構造を作っておくことです。ゼロにするのではなく、起きても痛くない形にする——これが現実的な到達点です。

④ 予防設計の3層——入口・継続・最終

予防設計は、時間軸に沿って3つの層で組み立てると整理しやすくなります。入口・継続・最終、それぞれで打つ手が異なります。

表:予防設計の3層
タイミング打つ手
第1層:入口入居審査時人物評価ではなく「支払いの継続性」を見る審査。支払いを担う人・原資を確認[1]
第2層:継続入居中支払方法の設計、契約条項の整備、状況変化の早期把握(口座・家族・資力)
第3層:最終万一の未収時それでも起きた未収を、施設の損失に転嫁しない仕組み(利用料の保証)

第1層の審査は、書類が揃うかではなく支払いが続くかを見る発想が要点です(審査あるあるを参照)。第2層は、契約書に未収時に効く条項を整え、支払いの前提が崩れる兆候を早めに掴むこと(未収時に効く契約条項を参照)。そして第3層は、予防を尽くしてもなお残るリスクを受け止める最後の砦です。

この中で意外と見落とされがちなのが、第2層「継続」の兆候把握です。未収は、ある日突然起きるのではなく、たいてい予兆があります。支払いのわずかな遅れが増える、ご家族との連絡が取りにくくなる、要介護度が上がって医療費がかさみ始める——こうしたサインを早く掴めれば、まだ資力が残っているうちに、分割のご相談など、続けられる形へ手を打てます。逆に、毎月の入金確認を現場任せにしていると、気づいたときには数ヶ月分が積み上がっている、ということになりがちです。入金状況を継続的に把握し、変化を早期に検知する仕組みそのものが、強力な予防装置になります。

重要なのは、この3層はどれか1つではなく、重ねてこそ効くという点です。入口だけ、契約だけ、では隙間から未収がすり抜けます。入口で支払いの構造を確認し、継続で兆候を掴み、最終で損失を受け止める——3層を重ねることで、未収の起きる余地と、起きたときの痛みが、段階的に小さくなっていきます。

⑤ 予防は施設単独では完結しない

もっとも、この3層をすべて施設単独で組むのは簡単ではありません。支払いの構造を見抜く審査には与信の知見が要り、契約条項の整備には法務の目が要り、そして第3層の「損失に転嫁しない仕組み」は、施設が自前で持つには限界があります。後見人がついていても支払いは保証されず(後見制度の限界を参照)、家族に頼っても機能しないことがあるからです。

だからこそ、予防設計は施設の努力だけで完結させようとせず、外部の仕組みと組み合わせるのが現実的です。とりわけ第3層——起きてしまった未収を施設の損失から切り離す部分——は、利用料の保証のような専門の仕組みに委ねることで、施設は入口と継続の設計に集中できます。予防設計とは、施設が抱え込むことではなく、役割を分担して、未収の起きにくい構造を全体として作ることなのです。私たちLAST SOLUTIONSは、この第3層を担うことで、施設の予防設計を支える立場にあります。

この役割分担には、もう一つ見逃せない効果があります。第3層を外部に委ねられると、施設は「回収に追われる時間」から解放され、その分の力を本来の仕事——ケアの質や、次の入居者の受け入れ——に振り向けられます。督促に費やしていた相談員の時間と気力が現場に戻る、というのは、数字に表れにくいものの、施設運営にとって決して小さくない果実です。予防設計は、未収を減らすだけでなく、現場の時間と誇りを守る取り組みでもあります。回収に疲弊する状態から、起きにくい構造を持つ状態へ——この転換こそが、予防設計という発想の目指すところです。

⑥ まとめ

未収対策の重心は、起きてから取り戻す「回収」ではなく、そもそも起こさせない「予防設計」に置くべきです。回収は時間・気力・不確実性という三重の負担を伴い、労力に対してリターンが読めません。予防設計は、入口(支払い継続性を見る審査)・継続(契約条項と早期把握)・最終(損失に転嫁しない保証)の3層を重ねることで、未収の起きる余地を構造的に狭めていきます。そしてこの設計は、施設単独ではなく外部の仕組みとの役割分担で完成します。私たちLAST SOLUTIONSは、入居者様の月額利用料の保証を通じて予防設計の最終層を担い、施設様が「起きてから追いかける」から「起きにくい構造を持つ」へと踏み出すお手伝いをしています。

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出典

  1. 「支払いの継続性」を軸とした審査の考え方は、当社コラム「入居審査のあるある」で整理しています。人の状況は入居後に変化しうるため、入口の審査のみで未収を完全に防ぐことはできない点に留意。

※本記事は未収対策の一般的な考え方の整理であり、特定の成果を保証するものではありません。個別の契約・法的判断は専門家にご相談ください。

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