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COLUMN / 未収・保証・与信

施設が「銀行」のように与信を持つ時代——支払い能力をどう見るか

執筆・監修

羽田 圭佑(株式会社LAST SOLUTIONS 代表取締役)
損害保険会社の損害サービス部門で事故対応と保険金の支払査定に従事したのち、保険代理店営業として引受時のリスク審査と契約設計に携わる。執筆者について

介護施設は、自分たちを「金融業」だと思ったことはないでしょう。しかし、月末締めで利用料を後から受け取り、その前にサービスを提供している時点で、施設は入居者に対して実質的に「お金を貸している」に近い立場に立っています。銀行が融資先の返済能力を審査するように、施設もまた、入居者の「支払い能力」という与信を、知らないうちに負っているのです。

結論から言えば、介護施設はいまや「与信(信用の供与)」を担う事業者であり、支払い能力を金融機関のような目で見る必要に迫られています。とりわけ入居一時金0円プランの広がりは、これまで未収時のバッファだった前受金を消し、施設の与信リスクを剥き出しにしました。本記事は、住宅型有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅の運営者に向けて、施設が負う与信の正体、銀行の与信管理に学べること、そして与信を自前で抱え込まない発想を整理します。

この記事の要点(3行まとめ)

  • 後払いで利用料を受け取る施設は、入居者に短期の与信を行っている(=実質的に信用を供与)。
  • 入居一時金0円プランは前受金バッファを失わせ、与信リスクを剥き出しにする。
  • 銀行の与信管理(返済原資・継続性・保全)に学びつつ、施設は与信を保証で外部化するのが現実的。

① 施設は実は「お金を貸している」

「与信」とは、相手を信用して、代金の支払いを後回しにすることを認める——つまり信用を供与することです。銀行の融資が典型ですが、実は身近な商取引の多くに与信は潜んでいます。掛け売り、後払い、サブスクリプション。「サービスや商品を先に渡し、支払いは後で受け取る」取引は、すべて与信を含んでいます。

介護施設もまさにこれです。入居者は今月分の居住とケアを先に受け、利用料は月末や翌月に支払います。この一ヶ月のあいだ、施設は「支払われるはず」という信用にもとづいて、先にサービスを提供しているのです。もし支払いが滞れば、その提供済みのサービス分は回収できず、損失になります。これは貸したお金が返ってこない「貸し倒れ」と、構造的にはまったく同じです。施設は金融の看板こそ掲げていませんが、機能としては入居者一人ひとりに与信枠を与えている——この自覚が、未収対策の出発点になります。

多くの施設でこの自覚が薄いのは、無理もありません。介護の現場は「お世話をする側」「してあげる側」という関係性で動いており、そこにお金を「貸している」という金融的な感覚は入り込みにくいからです。ご入居者と信頼関係を築くほど、支払いをドライな与信として捉えることに、心理的な抵抗すら生まれます。しかし、その優しさや性善説が、未収時に施設自身を苦しめることになります。ケアの現場に金融の目を持ち込むのは冷たいことのようで、実は施設と入居者の双方を守る備えなのです。与信の自覚は、ケアの心と矛盾しません。

② 入居一時金0円化が、与信リスクを剥き出しにした

かつて、入居一時金はこの与信リスクの緩衝材でした。まとまった前受金を預かっていれば、万一未払いが起きても、そこから充当して損失を抑えられます。いわば担保付きの与信だったのです。ところが近年、「入居一時金0円」「初期費用ゼロ」をうたうプランが広がりました。入居のハードルを下げ、集客しやすくする狙いです。

しかし、施設の与信管理の観点から見ると、入居一時金0円は「担保のない融資」に等しい状態です。前受金というバッファがないため、未収が起きたときに充当する原資がありません。「入居一時金0円」は入居者にとっての魅力であると同時に、施設にとっては与信リスクが剥き出しになるプランでもあるのです。集客のために一時金を下げるほど、支払い能力の見極めと、未収が起きたときの備えの重要性は増していきます。ここを意識せずに0円化だけを進めると、空室は埋まっても、未収という別の穴が開くことになりかねません。

③ 銀行の与信管理に学ぶ3つの視点

では、与信を負う施設は、支払い能力をどう見ればよいのでしょうか。ここは、与信のプロである金融機関の考え方が参考になります。銀行が融資審査で見るポイントは、大きく3つに整理できます。

表:銀行の与信管理に学ぶ3つの視点(施設への応用)
視点銀行の見方施設への応用
①返済原資返済に充てられる収入・キャッシュフローはあるか年金・資産で施設費用をまかなえるか(月々の収支)
②継続性その返済能力は将来にわたり続くか要介護度の上昇・資産の目減りで支払いが続くか[1]
③保全返せなくなったときの担保・保証はあるか一時金・敷金、保証など、未収時に頼れる備えはあるか

重要なのは、銀行が①だけでなく②③まで必ず見る、という点です。「今、収入があるか」だけでなく、「将来も続くか」「ダメなときの保全はあるか」までをセットで審査するのが与信のプロの発想です。施設の入居審査が「入居時点で年金があるか」だけに偏りがちなのは、まさに②と③が抜けているからだと言えます。支払い能力は、収入という点ではなく、継続性と保全まで含めた立体で捉える必要があります(支払い能力のデータはこちら)。

④ でも施設は銀行ではない——与信を抱える限界

とはいえ、ここで立ち止まる必要があります。施設は与信を負ってはいるものの、与信の管理・回収の専門家ではありません。銀行には審査部門があり、保全のための担保設定や保証の仕組みがあり、回収の専門部署があります。施設にあるのは、ケアの専門性です。与信のすべてを自前で背負おうとすれば、本業であるケアの資源が、専門外の与信管理と回収に食われてしまいます(現場の負担については人手不足と離職も参照)。

しかも、施設が使える保全手段は限られています。銀行のように担保を取ることは現実的でなく、家族の連帯保証も機能しないことがあり(後見の限界を参照)、一時金0円化でバッファも失われつつあります。与信は負っているのに、それを保全する手段が乏しい——これが、いまの施設が置かれた構造的な弱点です。与信を負うことと、与信を自前で抱え込むことは、分けて考えなければなりません。

加えて、与信の回収を施設が自前で行うことには、関係性の面でもコストがあります。日々ケアで顔を合わせるご本人やご家族に、施設の職員が金銭の督促をするのは、信頼関係を損ないかねない気の重い仕事です。銀行なら他人同士のドライな取引で済むことが、施設では「お世話になっている人への督促」という難しさを帯びます。与信の回収は、金額の問題であると同時に、ケアの関係性をすり減らす問題でもあるのです。この点でも、回収を施設が抱え込む設計には無理があります。

⑤ 与信機能を外部化する——保証という選択

この弱点を埋める発想が、「与信機能の外部化」です。実は金融の世界でも、与信を負う主体がリスクをすべて自前で抱えることはしません。銀行は信用保証協会や保証会社を使い、企業間取引では取引信用保険が使われます。与信を負う者が、その保全を専門の仕組みに委ねるのは、金融ではごく当たり前の設計なのです。

施設にとって、その役割を果たすのが利用料の保証です。支払い能力の見極め(②③の目)は施設が持ちつつ、それでも避けられない貸し倒れ=未収のリスクは、保証に引き受けてもらう。こうすれば、施設は与信を負いながらも、その損失を本業から切り離せます。しかも、保全が確保されていれば、一時金0円で間口を広げても、支払いに不安のある方を受け入れても、与信リスクに怯えずに済みます(受け入れ幅の考え方は「断らない」の損益分岐点を参照)。私たちLAST SOLUTIONSは、この与信の保全機能——支払い能力が尽きたときに施設の損失を肩代わりする役割——を、利用料の保証という形で担っています。施設が安心して与信を負い、受け入れの間口を広げられるようにするためです。

⑥ まとめ

介護施設は、後払いで利用料を受け取る時点で、入居者に短期の与信を行う事業者です。入居一時金0円プランの広がりは、前受金というバッファを消し、この与信リスクを剥き出しにしました。だからこそ、銀行の与信管理に学び、返済原資・継続性・保全の3点で支払い能力を立体的に見る必要があります。一方で、施設は与信の専門家でも、保全手段の豊富な金融機関でもありません。与信を負うことと自前で抱え込むことは別であり、その保全は保証で外部化するのが現実的です。私たちLAST SOLUTIONSは、利用料の保証を通じて施設の与信を保全し、施設が安心して受け入れの間口を広げられる時代の土台を支えています。

よくある質問(FAQ)

Q. 介護施設が「与信」を持つとはどういう意味ですか。

A. 利用料を月末締めなどで後から受け取る施設は、その一ヶ月分のサービスを先に提供し、支払いを後で回収しています。これは実質的に、入居者に対して短期の信用を供与している(与信している)状態です。支払いが滞れば、施設はその与信分を回収できず損失になります。

Q. 入居一時金0円プランにはどんなリスクがありますか。

A. 入居一時金は、未払いが起きたときに充当できる前受金のバッファとして機能します。一時金0円プランはこのバッファがないため、未収が起きた際に充当する原資がなく、施設の与信リスクが剥き出しになります。入居のハードルは下がる一方、支払い能力の見極めがより重要になります。

Q. 施設は与信をどう管理すればよいですか。

A. 銀行の与信管理に学び、返済原資(収入)・継続性・保全(担保や保証)の3点を見ることが基本です。ただし施設は金融機関ではなく保全手段が乏しいため、与信を自前で抱え込むより、利用料の保証などで外部化するのが現実的です。

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出典・注記

  1. 支払い能力の継続性(要介護度の上昇による支出増、貯蓄の目減り等)については、当社コラム「高齢者の支払い能力はどこまで持つか」で年金・費用の目安データとともに整理しています。

※本記事は、施設が負う与信の構造を金融の考え方になぞらえて整理した一般的な論考です。「与信」「保全」等の用語は説明のための比喩を含み、特定の金融・法制度上の定義を厳密に述べるものではありません。個別の契約・法的判断は専門家にご相談ください。

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